5月の世界株式市場は、米英間の貿易協定の締結や米中間の追加関税の大幅な引き下げが決まったことで、トランプ関税への過度な警戒感が和らぎ上昇(反発)しました。加えて1-3月期の企業決算も米国大型テック企業を筆頭に堅調だったことが、株式市場のサポート要因となりました。
4月は米国トリプル安(株式・債券・通貨)の展開でしたが、5月は米国株が急反発、一方で米国債や米ドルが前月に続き弱含みの展開でした。その主な要因は、トランプ大統領が7月に法案成立を目指すトランプ減税による財政悪化懸念です。
信用格付け機関のムーディーズが米国債を最上位から一ランク格下げしたことも、米国債と米ドルにとって足枷になりました。過去何十年にもわたって、世界の資産運用の中心的資産クラスとして君臨してきた米国債と米ドルの信用低下は、グローバル投資家の資産配分の意思決定にも大きな影響を与えています。
米ドルや米国債の弱さは仮想通貨ビットコインや金の人気に繋がり、地域的には足元で米国から欧州や新興国にお金が流れる現象を生み出しています。
先月、バリュー投資の神様と多くの人々の尊敬を集めてきたウォーレンバフェット氏が今年で引退をするという報道がありました。そしてオルタナティブ投資を軸に新たなアクティブ・ポートフォリオ運用を築き上げてきたハーバード大学やエール大学が、トランプ政権の圧力に起因する大学経営の将来不安から、保有しているPEファンドの売却を検討しているというニュースもありました(今まで積み上げてきた運用益を、ピンチを迎えた今このときに有効活用するのは大変有意義ではあるのですが・・・)。
日本ではパナソニックや日産自動車が1万人を超える大規模リストラを実施。業績好調のマイクロソフトもAIシフトから人員削減を行うとのこと。今まさに経済も金融も大きな転換期にきているのは間違いありません。
日経トップリーダー6月号でも「激変を勝ち抜く~トランプショックをチャンスに変える12人の知恵~」という特集記事を組んでいましたが、そこで印象的だったのが、御年89歳オリックスの宮内さんの言葉でした。その一部を抜粋および要約してご紹介したいと思います。
(宮内さん曰く)先が見えないとき、経営者の脳裏には「リスクが怖いから何もしない」逆に「リスクだがこれはチャンスでもある」という2つの考えがよぎるものです。自分自身は今回の状況について、もちろんチャンスと見ます。変化するからこそ面白いことが山ほど生まれるし、それは新しいことをする絶好の機会です。世の中が平穏で変化なく動いているとき、企業はそれまでやってきたことに磨きをかけて一生懸命やるしかありません。世の中が変化していれば、飛躍するきっかけをつかめる可能性が出てきます。
以上のことは資産運用においても同じことが言えると思います。ただ経営者と違って、優秀なアクティブファンドを保有する投資家は「何もしない」は全然OKです。なぜなら、自分は何もしなくても優秀な運用会社が「変化と機会を捉える企業(経営者)」に投資をしてくれるからです。
ファイナンシャルアドバイザーとして、世の中が悲観的な時に、楽観的なスタンスでいると能天気に思われることもありそうですが、そんな時は「実はまあまあ深く考えての楽観なのです!」と言いたいです(笑)。
【2025年5月の注目ニュース】
5/1S&P500社の1-3月期決算は全体の7割が市場予想を超える
5/1 欧州の投資家が米国に偏った資産配分(9兆ドル保有)の見直しを開始
5/2 日銀は1日の金融政策決定会合で政策金利0.5%の据え置きを決定
5/5 著名投資家ウォーレンバフェット氏(94歳)が、2025年末にCEOを退任すると表明
5/6 ハーバード大学やエール大学は、保有するPEファンド等の売却を検討
5/8 欧州の永世中立国スイスに「嫌米マネー」が殺到
5/8 FRBは7日のFOMCで3会合連続の金利据え置きを決定
5/9 米英両政府は、2国間の貿易協定締結に合意(初の関税合意)
5/10 世界の大手製薬6社が米国へ1660億ドルの投資を表明
5/10 パナソニックHDが1万人の人員削減を発表(黒字決算では異例の決断)
5/12 米中両政府は互いの追加関税を115%下げることで合意
5/13 日産自動車は2万人の人員削減を実施すると表明
5/14 米国の家計債務残高が1-3月期に18兆2000億ドルと過去最高に
5/14 マイクロソフトが事業モデルをAIに転換で6000人の人員削減を実施
5/15 米テックCEOがトランプ大統領に同行してサウジアラビアを訪問(中国に対抗)
5/17 ムーディーズは米国の信用格付けを引き下げ(政府債務の増加からAaa→Aa1)
5/17 日米の1-3月期GDPはマイナス成長に陥る(欧州は前期のマイナスからプラス転換)
5/21 世界の半導体株、中東のAI需要に期待、エヌビディア株は直近安値から4割高
5/22 中国から米国への輸出額が急減(4月はスマホ7割減、ゲーム機4割減)
5/22 米下院で「トランプ減税法案」が可決(215対214)、上院で修正協議へ
5/23 日米欧の超長期金利(30年債以上の年限)の上昇が加速
5/23 ビットコインの価格が約4カ月ぶりに最高値を更新
5/23 米トランプ政権がハーバード大学に留学生受け入れ資格の停止を通達
5/24 トランプ大統領が日本製鉄のUSスチールの買収を承認
5/24 米トランプ政権はEUに6/1から50%の追加関税を課すと発表(2日後に7/9まで延期)
5/28 新興国に脱米国マネーが向かい8カ月ぶりに流入超へ
5/29 世界主要25000社の1-3月期純利益は前年同期比5%増の約1兆1900億ドルと好調
5/30 米国で株高効果の息切れが警戒されている(レジャーや百貨店株は年初から大幅安)
5/31 米減税法案の中に、海外勢の対米投資の課税強化の条項があり波紋を広げている
5/31 米トランプ大統領は鉄鋼とアルミ製品の関税を25%から50%に引き上げると表明
【世界投資地図(過去3カ月および年初来騰落率)】
