2025年4月の金融経済動向(中浜の視点)

2025.05.08(THU)

先月の世界金融市場は、トランプ米大統領が4/2に公表した「相互関税政策」に大きく動揺しました。月間ベースの各指数の騰落率は、結果的にそこまで大きくありませんでした。しかし月中の値動きは激しく、米国を代表するS&P500指数も一時的に5000ポイント割れまで売り込まれました。今回の一連の関税政策は金融マーケットに大きな衝撃を与えただけでなく、第二次世界大戦後に築き上げてきた世界の自由貿易の仕組みを否定するもので、戦前のブロック経済圏を想起させるものです。

この急速な構造変化の悪影響は、初動段階で米国の金融市場に一番強く跳ね返ってきました。世界の基軸通貨である米ドル、そして世界一安全とされた米国国債は、通常はリスクオフの際に値上がりしますが、今回は大きく売り込まれました。所謂トリプル安(株式・債券・為替)です。

流石にこれはマズいとばかりに、トランプ大統領は中国以外の国地域への90日間の追加関税猶予を発表し、ひとまず世界同時株安に歯止めがかかりました。しかしそんな矢先に今度はFRBパウエル議長の解任を示唆したことで、再度不安が高まり、またもやトリプル安に。しかしここで、またもや前言を撤回。再度マーケットの下落は止まりましたが、とにかくトランプ米大統領の一言一言でマーケットが一喜一憂する日々でした。

その間に米国以外の国地域では、トランプ関税による不況に備えて利下げが行われ、金融政策で景気の下支えを図っています。特に欧州では財政出動も期待され、世界の投資家の注目が高まっています。

逆に米国では関税によるインフレ懸念で利下げも出来ず、米ドル安を引き起こしています。それに加え、ハーバード大学を筆頭にリベラルな価値観を持つ大学の助成金が打ち切られる等の動きがあり、米国の強さの源泉である米国の研究者の一部はカナダや欧州に拠点を移そうとしています。優秀な人材の米国離れによって、移住先の技術革新が期待される事態になっているのは、MAGAにとって皮肉な結果とも言えるかもしれません。

現在の米国の在り方に対して思うことは多々ありますが、個人的には米国民が選んだトランプ大統領の政策の良し悪しを論じることに興味はありませんし、この動きをどうすることもできません。それよりも「変化にいかに対応するか?変化の中にいかに機会を見出すことができるか」の方が重要と考えます。トランプ関税の負の側面から生じる下落リスクだけでなく、それによって起きる変化の中の「未来の投資機会」に思いが至るか。それが長期投資に必要なマインドセットだと思います。

【2025年4月の注目ニュース】

4/3 トランプ米大統領は4月2日を米国の「解放の日」とし、世界各国に高率の相互関税をかけると公表
4/3 米国株式は「関税ショック」で全面安(NYダウー3.9%、S&P500ー4.8%、ナスダックー5.9%)
4/3 相互関税ショックで日米欧の株式時価総額は約500兆円消失、日経平均34000円割れ
4/4 中国が米国からの全ての輸入品に34%の追加関税を課すと発表(報復関税)
4/4 米国株式は中国の関税報復を受け急落(NYダウー5.5%、S&P500ー6%、ナスダックー6%)
4/5 個人投資家の証券口座の乗っ取り被害が証券5社で確認(楽天、SBI、野村、日興、マネックス)
4/6 米中の関税競争止まらず(一方でインドやベトナムなどは自国の関税引き下げの動き)
4/7 日経平均は業績悪化予想で過去3番目の大きな下落(2644円安で31136円)
4/7 アジア株は貿易戦争による景気悪化懸念から全面安(台湾と香港は1日で1割下落)
4/9 トランプ関税が発動(対日24%、対EU20%、中国にはさらなる追加関税50%で累計104%に)
4/9 日経平均は1876円高(前日のNY市場がほぼ横ばいで売りが一巡、割安感から買いが優勢)
4/9 トランプ米大統領は相互関税上乗せ分を90日停止と発表(中国には追加関税で累計125%)
4/9 トランプ米大統領の相互関税90日停止発表を受け、NYダウは2962ドル高(+7.9%)と急反発
4/11 中国が米国製品への報復関税を84%から125%に引き上げ(米中は消耗戦に突入)
4/16 トランプ政権は米ハーバード大学への助成金(22億ドル)を凍結
4/18 グーグルの独禁法裁判、検索エンジンに続きネット広告も反トラスト法違反の判決(米連邦地裁)
4/18 ECBは0.25%の利下げを決定(6会合連続で政策金利はピークの4%→2.25%)
4/20 トランプ関税を受けた原油安がトランプ政権の原油増産構想を狂わせ支持基盤に打撃
4/22 中国が農作物やエネルギーの米国依存の脱却を急速に図っている(ブラジル産など代替調達)
4/22 米トランプ大統領がFRBのパウエル議長の解任を示唆(為替は1ドル140円まで円高に)
4/23 IMFは2025年の世界経済見通しを0.5%下げて+2.8%予測に変更(米国は0.9%下方修正)
4/23 トランプ米大統領がFRB議長を解任しないと前言撤回(米国市場反発、1ドル143円まで円安に)
4/23 東証は東証グロース市場で5年経過後に時価総額100億円未満の企業は上場廃止と決定
4/25 日経平均は続伸して35705円で終え、2日の相互関税ショックの下落分を回復
4/28 トランプ米大統領は関税の導入で、年間所得20万ドル未満の所得税の廃止の可能性を示唆
4/30 EUは米国の研究者の移住支援政策を検討すると表明(欧州における技術革新の好機に)

【世界投資地図(過去3カ月および年初来騰落率)】

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