GPIFの運用を見て思うこと

2017.07.11(TUE)

先週7月7日、私たちの公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立法人)の2016年度運用成績が公表されました。結果は+5.94%(市場運用部分)。GPIFは運用資産を約145兆円も有する世界最大の機関投資家ですから、運用益も約8兆円と巨額となりました。

ところで、GPIFは2001年度から本格的に金融市場で資産運用を開始したのですが、以前は主に年金福祉事業団が財政投融資債を購入するかたちで運用を行っていました。しかしそれでは日本国民の大事な老後資金がどのように運用管理されているのかが極めて不透明であることから、独立した運用管理機関(GPIF)をつくり透明性の高い運用をしようということになったのです。

現在は基本的に国内債券35%、国内株式25%、外国債券15%、外国株式25%というバランス(資産配分)で運用することになっています。

ところでGPIFが2001年度に市場運用を始めてから、常につきまとうのが「国民の大事な老後資金を株式や為替の変動に晒して、損を出したらどうするのだ!」という、マスコミを中心とした批判の声です。

ちなみに2015年度のGPIF運用成績は-4%で約5兆円資産が減少しています。
この時もアベノミクスの失敗とか、年金がギャンブルをしているなどという論調で、一部のマスコミが騒ぎ立てていました。こうして一般的な日本人に「投資は危ない」という刷り込みがされていった気もします。

ここでGPIFの過去10年の市場運用の成績をご覧ください。

【過去10年の運用成績】
2007年度 -6.4%
2008年度 -10.0%
2009年度 +9.6%
2010年度 -0.5%
2011年度 +2.5%
2012年度 +11.3%
2013年度 +9.3%
2014年度 +12.9%
2015年度 -4.0%
2016年度 +5.9%
(10年間の平均リターン+2.76%、資産増加+31%)

運用成績を単年度でみると、10年間でマイナスの年が4回。プラスの年が6回。
(特に当初、100年に一度と言われるリーマンショックが起きていることに注目)
冷静に見て、かなり運の悪い10年と言ってもいいでしょう。

とは言え、もしもGPIFが短期の変動を回避して、元本割れのない預貯金で運用をしていたとしたなら(実際には巨額過ぎて預金も難しいのですが…)、この10年間で資産は全く増えず、年金財政はさらに悪化したことでしょう。

GPIFは市場運用を開始した2001年度~2002年度にもITバブル崩壊にあって大きなマイナスを出しましたが、2001年度~現在にいたる資産運用の累積収益は約50兆円にも上ります。国民の大事な老後資金を長期の視点でしっかり増加させているのです。

それでも海外の優れた機関投資家の運用成績には全く及ばないのが実情ですから、今後ますます運用改革をして、少しでも私たちの老後資金を増やしてほしいものです。

しかし残念ながら…、GPIFがいくら頑張っても、それによって私たちの退職後の生活が良くなることはないでしょう。

日本の年金制度は賦課方式で、基本的に現役世代の年金保険料(掛け金)から年金受給者の年金が支払われる仕組みです。

過去、現役世代の掛け金が給付より多かった分、毎年それが蓄積され、それが今のGPIFの運用資産になっています。資産規模は約145兆円と確かに世界最大級ではあるのですが、今後は確実に取り崩しのステージに入ってきます。

平成27年時点、現役世代で年金を払っている人の数は約6712万人、年金をもらっている人は約4025万人。概ね6人で4人を支えている構図です。そして現在、日本全体で年間の年金給付がいくらかというと約50兆円です。この数字は今後も増加していくことを考えると、GPIFの145兆円も少なく感じます。

このように現役世代と年金受給者の比率、年金給付の絶対額を見ると、我が国の公的年金がいかに厳しい状況か、よく解ります。

今後はGPIF(年金)に退職後の生活を頼るのではなく、GPIFの運用を参考に、自分自身の資産運用をどうするかを考えるべきなのだと思います。

「投資が危ないのではなく、投資をしないことの方が危ない。」
GPIFの運用を見ながら、そんな時代のメッセージを感じます。

関連記事