2024年8月23日付の日経新聞によると、米国の家計全体の金融所得(2024年4-6月の利子・配当合計の年率換算)が、過去最高の3.7兆ドル(約540兆円)に達したとのこと。
これは日本の家計の金融所得の40倍という大きな金額になるそうで、米国の強い個人消費の要因の一つにもなっています。先日、日本の名目GDPが初めて600兆円の大台に達したという嬉しいニュースを聞いたばかりですが、日本全体(政府部門・企業部門・個人部門)で懸命に1年間で生み出した総所得(GDP)と、米国の個人部門の利息・配当金額がそんなに変わらない数字であるという事実に衝撃を受けました。
もう少し詳細に数字を見てみると、同時期の米国の総個人所得は約23.6兆ドル。前述のとおり、その内の3.7兆ドルが金融所得で所得全体の約16%を占めます。雇用者報酬(労働所得)は約60%強で、残りの約20%は政府からの移転収支(給付金等)ですから、所得全体に占める比率からみても、金融所得が個人の生活に大きなインパクトを与えていることがわかります。ちなみに株式の値上がり(キャピタルゲイン)等は金融所得に含まれなく、あくまでインカムゲイン(利息・配当)に限った話なのです。
さて記事を読んで改めて、足元の日米の差を整理整頓をしてみたいと思いました(下記参照)。
上表から、まずは日本の現状を確認しておきたいと思います。日本の人口は、少子高齢化でピークから減少し始めていますが、それでも世界12位です。国土の面積が世界61位であることを考えると相対的な人口は未だ多いと捉えることもできます。円安の影響もあり、最新の名目GDPランキングではドイツに抜かれ世界4位にランクダウンしていますが、それでも世界TOP5に入っていることはすごいことだと思います。GDPは一国の経済規模を表す数値なので、人口が多い国の方が相対的に大きくなります。人口は多ければ多いほどビジネスチャンスも多く、そこに熾烈な競争が生じますのでイノベーションも起きやすく、GDPのもう一つの重要な要素である「生産性」の向上も期待できます。米国でも賛否両論はあれ、過去の移民政策がイノベーションを生み出してきたことは間違いないでしょう。大手テック企業のトップの多くがインド系や中国系の移民出身であることがその証拠であるように思えます。
GDPのランクダウンより深刻なのが、ひとりひとりの生活の豊かさを示す「日本の一人当たりGDP」が世界32位まで凋落していることです。個人の人生を支えるのは「個々に保有する人的資産と金融資産の適切な運用である」というコンセプトが私たちの資産運用サービスの根幹にありますが、人的資産の運用の成果をマクロ面から示すのが「一人当たりGDP」です。この数値がどんどん落ちていくようでは、個人の人生の「ゆたかな未来」のヴィジョンが描きづらくなってきます。
日本は今後、急速な人口減少を前提に、生産性を向上させて一人当たりGDPを上昇させる挑戦をしていかなくてはなりません。個人的には、それは日本という国土において「私たちのような普通の人がしっかり食っていける仕事がある」という状態を保つということだと解釈しています。
次に金融資産について日米格差の側面から見てみたいと思います。冒頭にご紹介したように、米国の家計の金融所得は年間で約3.7兆ドル(現行為替レンジから約500兆円~550兆円)です。この数字を米国民一人当たりに換算すると毎年約1万ドルの利息配当収入があることになります。一般的な米国の4人家族だと約4万ドルの金融資産からの収入に加え、夫婦二人の人的資産から発生する平均年収が約16万ドル(総個人所得から推測)。そうすると世帯年収が合計で約20万ドル(日本円で約2800万円~3000万円)くらい。
何となくではあるのですが、米国の家計の姿を統計数字からイメージすると、「人的資産と金融資産の両輪」を上手く回しながら、インフレ経済下でも消費活動を落とすことなく、経済成長を実現している「米国経済の実相」が見えてきそうな気がします。(一方で米国内の経済格差は大きな問題ではあるのですが・・・)。
日本の数字を、米国と比較して見てみると、新NISAなど資産運用立国の施策を打ち出していますが、まだまだ緒に就いたばかりで、現時点において金融所得が人生や生活にインパクトを与えるには至っていないことがわかります。そして日本が、米国のように金融所得が有効に個人の生活に活かされる状況をつくっていくには、まだまだ長い時間を要しますし、むしろ時間をかけてやることこそが重要なのだと思います。
そう考えると、次の米国の大統領が誰になろうと、為替や金利や株価が短期的に上がろうと下がろうと、あくまでそれは一時的なことで、大事なのは自分自身の「よりよい人生を形成する」ために「人的資産と金融資産の適切な運用」を長期視点で実行していくことだと思います。それを改めて気づかせてくれた「米国の金融所得のニュース」でした。